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公的な契約の時に⼿書きで名前や住所を書いていると、なんとも不確かで曖昧なものによってこの世は形を保っているのだなと思う。「私はここにいる」ということを記す⽅法がわからない。⾝体の中の痛みや、⾵の気持ちよさ、空腹感、切ない気持ち。私が「今ここにいる」という実感は、他者と共有することができない。共有できないものは、存在を証明できない。書類に⽂字を書く時の不安は、⼿書きという⾝体の証明を求められているのに、そこに⾃分を⾒つけられないからだろうか。
私は⼥として、命を作る⾝体と⼀緒に毎⽇を⽣きている。毎⽉痛みと共に理由のない悲しみや孤独感が襲いかかってくる。それはホルモンの関係で起きる「乱れ」だと思っていたが、最近はむしろ「本来の状態」なのかもしれないと感じる。誰しもがそれぞれの孤独を抱えて⽣きていて、どうしても繋がることができない寂しさを埋めるために、⾔葉で存在を確かめあっている。私に訪れる毎⽉の⾝体の変化は、私の理性を溶かして⾔葉を切り離す⼿助けをしてくれているのかもしれない。
年齢や性別、国籍や⽴場といった名前を脱いで、ひとつの孤独な⾝体がただ⽬の前の存在と対峙する。そんな瞬間をを得るために、そんな瞬間を分け合うために制作している。制作している間は、名前や住所では表せない現在位置「ここにいる」ということが現実味を帯びる。
勝⼿に息づいている空間の中で、そこに流れる時間の⼀部として⼈が存在する。そんな⽣まれる前にいた場所のような空間を作りたいのかもしれない。


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⼭⽥彩七光《One》
2 分 53 秒(ループ)
2020 年


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⼭⽥彩七光《NOON》
1 分 45 秒
2019 年
略歴
山田彩七光
Sanami YAMADA
1995年 東京生まれ。
2020年 東京藝術大学卒業制作展にてサロン・ド・プランタン賞受賞、8K映像コンペMADD.Awardにてグランプリ受賞。
2021年 学生CGアワードにてアート部門、エンターテイメント部門入選
2022年 コミテコルベールアワード入選展参加
2023年 東京藝術大学修了制作展にてデザインN賞受賞
2024年 CANON株式会社 GRAPHGATE 入選展参加
同大学で助教を勤めながら作家活動を続ける。
アニメーションの技法を用いて光の演出と身体的アプローチを活かした映像インスタレーションを中心に制作。
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